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〜教育について考えるブログ〜

【読書感想文#2】『学力・心理・家庭環境の経済分析』(2016)中編-1

こんにちは。

 

前回書いた『学力・心理・家庭環境の経済分析』読書感想文の続きです! 

 

学力・心理・家庭環境の経済分析 -- 全国小中学生の追跡調査から見えてきたもの

学力・心理・家庭環境の経済分析 -- 全国小中学生の追跡調査から見えてきたもの

 

 

前編はこちら↓↓↓

【読書感想文#2】『学力・心理・家庭環境の経済分析ー全国小・中学生の追跡調査から見えてきたもの』(2016)前編 - 根拠のある教育を!

 

今回は、本書で紹介されている実践的なデータ分析について書きます。

 

使用するデータは前編に書いた通り、『日本子どもパネル調査(JCPS)※』です。

 

※ JCPS

2年間に一度行われる認知・非認知能力及び家庭環境に関するアンケート調査。

小学生または中学生の子を持つ家庭の中からランダムに抽出された家庭に対して、主に郵送にて行われる。

 

内容の難易度も考慮して、今回は本書の分析結果を簡単に振り返って考察します。

 

もっと詳しく知りたい!っていう人はぜひ本書をお手に取ってみてください。

 

 

親の経済力と子どもの学力

本書の3章では、親の経済力が子どもの学力に与える因果関係を推計しています。

 

前編に書いた通り、本書の特徴は日本で行われ調査であるJCPSを使ったことにあります。

 

JCPSを利用することの利点は主に以下の3つです。

  1. 日本人を対象にしたデータであること
  2. 非認知能力・家庭環境についてのデータも集めていること
  3. パネル調査であること

 

非認知能力や家庭環境についてのデータを集めることで、家庭環境が子どもの能力に与える影響を推計できるようになります。

また、今までは認知能力(学力)への影響だと考えられてきたものを、認知能力と非認知能力に分解して分析することでより正確に推計することができるようになりました。

 

パネル調査というのは、同一人物・団体を対象に一定の期間ごとに複数回調査を行うことを指します。

 

クロスセクションデータ(一時点での調査)では時間の経過による影響力の変化や、義務教育のどの段階で能力が決定・固定化されるのかについて知ることができません。

一方でパネルデータでは同一対象に複数回調査を行うので、動態的な因果関係についても推計できます。

 

経済学的な説明は疲れると思うので、そろそろ本題に入りましょう。笑

 

JCPSはまだ始まってから日が浅いので、本書は2回分の調査(1回目と、その2年後のデータ)のみを使っていました。

 

隔年データである特性上、2学年分のデータを同一グループとみなして分析しています。

 

例)

1回目時点で小1・2

→2回目時点での小3・4と比較

 

1回目時点で小5・6

→2回目時点での中1・2と比較

 

✳︎

具体的な分析は以下の2つです。

 

  • 世帯所得と子の学力

小1・2と小3・4のグループは、2年後のデータでは世帯所得による学力格差が広がっていました。

 

一方で小5・6のグループは、2年後には学力の差は縮まる傾向にありました。

これは中学校に上がるとともに学習内容が変化して、世帯所得による認知能力への影響(家庭教材や塾など)が一旦リセットされた結果だと思われます(完全に私見です)。

 

  • 父母の学歴と子の学力

小5・6のグループは2年後に学力の差が広がるという結果になりました。

こちらは世帯所得の場合と異なり非認知能力の方に強く結びついていると考えられるので、学習内容の変化によるリセット効果を受けなかった可能性があります(これも私見)。

 

学力のモビリティ

3章ではさらに、パネルデータの特徴を生かして、学力のモビリティ※についても分析しています。

 

※モビリティ

データを階層化し、ある階層から他の階層へと時間を通じてどれほど移動したかを示すもの。

下位階層→上位階層の移動など。

 

学力のモビリティが何を表すかというと、

低学力層→高学力層の移動が多く見られる場合、その効果は教育政策によるものだと考えられます。

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また、モビリティが低い場合は学力水準の修正が現時点で困難であることを表します。

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分析結果から見られる関係は、

  • 高所得家計の方がモビリティは高い
  • 親が低学歴だと下方へのモビリティが強くなる

でした。

 

おそらく皆さんのイメージ通りで、高所得家庭の方が子の学力は伸びやすく、親が低学歴の子は相対的に学力で劣りやすいと言えます。

 

さらに小学校低学年と比べ、高学年の方がモビリティが低い(学力の固定化が顕著)こともわかりました。

ここから得られる気づきは、「子どもの学力を安定して伸ばしたいのなら手を打つべきは小学校低学年の時である」ということです。

もっと言うと就学前教育の方がいいらしいです。

 

後述する固定効果モデルで遺伝や家庭背景などの効果を取り除いて推計すると、世帯所得が学力に与える因果効果の統計的有意性は失われます。

つまり、「世帯所得と学力の間の因果関係ははっきりしない」ということです。

 

もしこれが事実だとすると、一時的な金銭支援は必ずしも学力格差を縮小しないことになります。

明確なエビデンスが得られないまま政策を推し進めたとしても、国民は納得するでしょうか。

ジョジョの奇妙な名言を借りるなら「『納得』は全てに優先する」んです。

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固定効果モデル

パネルデータとは時間を経て追跡調査を行うものなので、時間を経ても変化せず、さらに観測できない属性を制御することができます。

 

これは「固定効果モデル」と呼ばれる分析モデルで、例えば遺伝による影響や家庭背景による影響の因果的効果(固定効果)を識別することができます。

 

まあ名前はどうでもいいんです。笑

ここで伝えたいことは、同一人物・団体を対象に、継続的に調査を行えなければ意味がないですよ、ってことです。

 

もちろん本書で使ったJCPSもたった2回分なので、まだまだ不十分です。

調査対象となった家庭の方々には最後までご協力をお願いしたいですね。

お礼としてオリジナルクリアファイルもらえるらしいですよ!笑

 

✳︎

ごめんなさい。

書きたいことが多すぎて3章だけで2000字超えちゃいました、、

 

こんなんじゃそのうち読まれなくなるよなー…

 

今回は中編-1ということでよろしくお願いします (´・ω・`;)

 

ご拝読ありがとうございました!